人生を豊かにした本

秋の全国交通安全運動が始まりました。期間は21日から30日までです。お年寄りや子供の交通事故による死亡が多いそうです。お年寄りや子供のいる場所では普通以上の注意を払って運転するようにしましょう。

今週のお題は「人生に影響を与えた本」ですね。かなり重い題ですね。幸か不幸か今までのところ「人生に影響を与えた本」と言えるほどのものには遭遇していない。今はあまり本を読まないが、若いころはかなり読んでいたと思う。それで人生が少し豊かになっているということは実感している。そこでそのような本を一冊。

梅原猛著「水底の歌」(1973年刊)は持統天皇に仕えた歌聖柿本人麻呂に関する本である。私は上巻だけ読んでまだ下巻は読んでいないのであるが、とても面白く思った。人麻呂は古代日本では民衆に愛唱されたピカ一の歌人なのである。人麻呂を祀った祠などが田んぼの中にあったりしたという。皆台風18号のような大雨で流されたしまったのでしょう。

著者は、柿本人麻呂が何らかの政治的事件に巻き込まれ、流罪になったという説を立て、人麻呂の亡くなった地「鴨山」という場所は、斎藤茂吉の示した石見国邑智(おうち)郡の粕淵の地であるとする説に反対し、氏の説の矛盾点を挙げる。人麻呂の晩年の歌には「水底」や「死」に関するイメージのあるものが多いことから、鴨嶋という海上の小島に流罪となり、そこで亡くなったのだろうという説を唱える。

人麻呂の晩年はちょうど藤原氏律令制が始まりかけたころであるから、このような政治的事件に巻き込まれるということは十分に考えられる。

その「鴨山」で人麻呂が死ぬ間際にうたった歌が万葉集に載っている。「鴨山の 岩根し枕(ま)ける われをかも 知らにと妹が まちつつあるらむ」(鴨山の岩を枕に横たわり死のうとしている私を何も知らずに妻は待ち続けているのだろうな)

妻の依羅娘子(よさみのをとめ)の歌もある。「今日今日と 我が待つ君は 石川の 貝に交じりて ありといはずもや」(今日か今日かと私が待つ貴方は石川の貝〔あるいは云はく、谷〕に交じって倒れているというではありませんか)